IUIピックアップ VOL.30
地域の「気持ち」をデザインする
インタビュー
志村 真紀[地域・都市デザイン、建築意匠、まちづくり、デザイン学/地域連携推進機構 地域実践教育研究センター准教授]
Interview with
Maki SHIMURA
写真|白浜哲
志村先生の所属はどこになりますか。
志村 所属は「地域連携推進機構」です。担当が大学院の都市イノベーション学府と先進実践学環です。本学に着任して今年で18年目(YEARBOOK2024/2025掲載時)になりますが、「ベンチャービジネスラボラトリー」の講師を3年務めた後に、「地域実践教育研究センター」の教員になりました。私が着任する前の2004年に、本学が文部科学省による「現代教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」が採択されたことで、前任の三輪律江先生たちにより地域課題実習やコア科目といったプログラムが始まり、2007年に「地域実践教育研究センター」という組織ができた流れになります。地域課題実習は設置されてから今年で20周年(YEARBOOK2024/2025掲載時)を迎えました。
地域課題実習はどのような特徴がある教育プログラムでしょうか。
志村 地域課題実習は本学の全学部生に向けて開かれている副専攻プログラムの1科目です。その名の通り地域の方々と連携して課題を解決したり、地域を活性化していく実践科目になります。里山保全、商店街の活性化、オールドニュータウンの持続可能に向けた活動といったプロジェクトがあり、横浜市・神奈川県エリアだけでなく、地方の活性化に関わるものもあります。ひとつのプロジェクトにつき多いところで30名ほど、少ないところでは数名によるものもありますが、履修参画する学生数もプロジェクト数も年々増えています。
数あるプロジェクトの中で最も古い科目は何になりますか。
志村 「和田べんプロジェクト」が老舗ですね。それから経済学部の居城琢先生が引き継いで担当している「データで捉える地域課題・地域経済」のプロジェクトも古くからあります。後者のプロジェクトは単純に数字だけを追いかけるだけではなく、地に足を付けたリサーチによって地域経済の状況を捉えようとする研究的な活動が続けられています。
「和田べんプロジェクト」は、大学近くの和田町商店街を活性化させるために、本学で弁当販売のコーディネートをしていたプロジェクトですね。
志村 その通りです。和田町の飲食店の味を知ってもらう機会提供の側面もあります。横浜国立大学は買い物に不便な丘の上にありますが、お昼に安くてボリュームのある「和田べん」を食べることができるのは学生にとってもうれしいことですね。実は、「和田べんプロジェクト」自体は2020年に終了しているのですが、和田べんの販売に関わる活動は現在「アグリッジプロジェクト」に引き継がれています[図1]。さらには、アグリッジが栽培した野菜の一部は和田べんをつくる飲食店に買っていただき、お弁当の具材にも入れていただいています。農家の方々の高齢化が進むなか、市街化調整区域として残っている農地をお借りして、売上の一部を農家さんに地代として還元する仕組みになっています。以前2010~2012年には「横浜地産地消推進プロジェクト」がありましたが、 大きな地域課題としての地産地消という点でも共通したプロジェクトです[図2]。
一度立ち上がったものがプロジェクトの中で何年も継承されていくために、どういった取り組みが行われているのでしょうか。
志村 近年においては学生たちが上級生から下級生へと、役割をうまく引き継いでいるプロジェクトが増えています。また、プロジェクトの発展によっては、課題を解決していくことで次の課題やビジョンへとステップアップしていくケースもあります。地域課題は1、2年の年月で解決できないものばかりですので、学生も担当教員も地域からの信頼を得ながら課題を解決していくことを大事にしており、継続的に活動を行っています。
Y-GSAが携わったものに「松原商店街バザール創造プロジェクト」がありました。そのことで、天王町の洪福寺松原商店街は自立した商店街としていまも動いています。大学がうまくエンジンをかけるためのお手伝いができた事例だと感じています。
志村 地域課題実習とY-GSAのインディペンデントスタジオによるコラボレーションという体制で進められたことが良かったと思います。熱意のある学生がいることで、それが他の学生の中で伝播して大きなエネルギーに変わっていく。そのことが商店街や地域の方々にも伝わったのではないかと思います。
今後の展開で考えていることはありますか。
志村 国際教育センターの「JOYプログラム」や、都市科学部都市社会共生学科のグローバル教育プログラムである「YOKOHAMA ソクラテスプログラム」に所属する学内の留学生も、地域課題実習へ履修・参画することができるようになりました。ですので、これからはプロジェクト内における学生間の国際交流も増えていくと思います。また一方では、お隣の韓国においても、日本と同じように人口減少や地方衰退という課題を抱えているため、地域課題実習のような地域に貢献していく学びのプログラムを導入したいという動向があります。2019年には韓国の大学教員チームがヒアリングに来られ、その後すぐに慶尚大学で本学の地域交流科目を参考にした副専攻プログラムが設けられました。また、2020年の1月に私が韓国の国際フォーラムで地域交流科目や地域課題実習について講演したことをきっかけに、その後大邱大学から連絡があり、2024年から両校が交代で行き来をして学生を含めた交流発表会を進めています[図3]。
国際連携の動きも始まりつつあるということですね。地域の可能性を大学のコモンズとしてつくっていく時に、行政や企業からの寄付を募ることができればもっと大きな展開になっていくと思います。それこそが真の地域連携の研究であり、在学中に学生が会社をつくることにも繋がる。地域課題実習を経て会社をつくった例もあると聞きました。
志村 地域課題実習においても、履修する現役生たちが横断的に連携し、起業した事例として「ヨココネクト」があります[図4]。「ヨココネクト」は地域や組織においてより良い対話やコミュニケーションを促進させるためのゲームをオリジナルで製作し、自治体や企業へと、ゲームを介したファシリテーションやワークショップなどのサービスを提供しています。こういったスモールビジネスを学生のうちにやってみることは、今後のとても良いステップになると思います。コロナ禍を踏まえた昨今においては、兼業や副業というかたちで、地域や趣味の活動を含めたスモールビジネスに着手している方もいらっしゃいます。今後はさらなる人口減少が進むことで、必要とされている場所に人手が足りなくなった時に、二足のわらじを履くことで地域社会を維持できるものもあるのではないかなと思います。そのためには、ビジネスの大きさよりも収支のバランスを整えていくための経営的思考や勉強が必要になってきます。まずは地域課題実習を通じてコミュニケーション能力を身につけ、課題を共有する動き方などをしっかりと学び、組織のリーダーとして数年間活動すれば、スモールビジネスを立ち上げるためのチームビルディングやマネージメント力は十分に付くと思います。
事業内容や経営計画書の書き方、また融資の受け方を学ぶための実践的なプログラムも実習の中にあると良いかもしれません。
志村 本学には経営の先生もいらっしゃるので、地域課題実習にかぎらずスモールビジネスとして次世代に向けた経営的な視点を学べる機会があれば、よりステップアップしやすいですよね。
実践的な内容を学べる授業は、大学のクリエイティブな世界の中で必要だと思います。建築学科にもこういった試みはあったと思いますが、地域課題実習の場合はそれが具体的に人の役に立っていることに素晴らしさを感じています。
志村 例えば企業の方々には、寄付講座としてやってもらうのも良いですね。企業における地域貢献にも繋がるのではないかと思っています。
地域課題実習というリソースに対してのベーシックな寄付を何社かの人にお願いできると良いかもしれません。プログラムとしてすでに寄付を受けるためのふさわしい骨格を持っていると思います。今回のYEARBOOKのテーマであるケアにも繋がっていきます。「都市とケア」について志村先生が考えていることはありますか。
志村 ケアという言葉には「労わる」、「配慮する」といった意味合いがあると思います。そこで「都市とケア」に関してひとつ言えるのは人口の増減からの観点です。これまでは人口増加の時代でしたが、都市が成長してきた時代と、都市が縮小していく時代のケアの仕方は少し違うと思っています。私の場合は人口が増加している時代に生まれ、静岡の丘陵地で野原、山、川を走り回ることのできる環境の中で育ちました。そんななか、高校1年生の時に深夜帯に偶然放映されていたテレビの特番を見ていたら、自分が住んでいる丘陵地を開発し、劇場をつくるといった大きな建築コンペティションの模様が流れていました。当時は1990年代初頭だったので、建築としてはポストモダンの時期です。そのためか、自然溢れる場所を伐採して、建築的にも奇抜で尖っているようなデザイン案が、国内外の有名な大学の研究室によって提案されていました。それを見た時にすごく衝撃を受けたんです。「なぜ、地元の地域の人々の気持ちを理解してくれないんだ」と。そういった想いが、私にとって建築や都市に関わる道に進む大きなきっかけになりました。
例えば都市化をすることは、言ってみればイノベーションとして良い機会になることはあります。でもそれが田園風景のある地域で、地元住民の気持ちが汲まれていない提案や開発となれば心が痛くなります。実は、あのテレビ放映があった翌朝、私はそのローカルテレビ局に殴り込みに行こうかと思ったほどで(笑)、その怒りの矛先をどこに持っていけば良いのだろうかと考えました。ただ、高校1年生がそのように行動したとしても、向こうは相手にしてくれないと思いました。そこで冷静に考えた結果、専門的な知識を学ぶことで、地域の人々の気持ちを汲んだ建築をつくり、都市のデザインに対して意見を言える人間になりたいと思いました。
当時は現在のような学際的で文理融合な都市に関する学科を設けている大学はほとんどありませんでしたが、横断的に新しい枠組みや考えを持って創設されていたのが神戸芸術工科大学でした。以前に東京大学等で建築計画の研究室を持っていた吉武泰水先生が初代学長だった大学です。私が入学したのは7期目にあたりますが、デザインの領域においても柔軟な思考を持った場をつくろうとしていた学校でした。また私が神戸芸術工科大学を選んだ理由のひとつには、阪神・淡路大震災があったからでした。本当は別の国立大学に進学しようと思っていましたが、都市について学ぶのであれば被災した神戸で、復興し立ち上がっていく姿を見ながら学んだ方が良いのではないかと思ったんです。地元の静岡県は私が小さい頃から東海大地震が起こると言われていた地域だったこともあり、復興の仕方を含めて神戸で学びたいと思いました。
被災した神戸だからこそ学べることがあると思ったんですね。
志村 はい、そうです。例えば入学したばかりの頃の建築構造の授業では、三宮で被災したRCの建築を見学し、どのような力が働いたからそのようなヒビが入ったのか説明を受けました。また、別の授業では三宮や元町の商店街にあった多くの屋台を調査したりもしました。復興の時期には屋台が出ている傾向があるんです。
まさに「都市とケア」そのものですね。
志村 日本という災害の多い国においては、ケアと復興の問題はとても大きな課題です。一方で、人口が減少している時代においては、地域の人々に対してケアの気持ちを持ってデザインやプランニングを行うことが必要です。とくに今後は高齢化と人口減少で空き家も空き地も増えていくことになります。都市が痛みを伴って縮小していく中で、それらの地域に住んでいる人々がどうやって豊かに不便なく暮らしていくことができるのか。そういった緩和ケアとしての活動を、今後考えていくことが増えると思います。
つまり成長している時も、災害によって甚大な被害が起きた時も、人口が減少している時も、重要なことはそうした痛みや気持ちを汲めるかどうかということですね。
志村 そうです。「いかに地域の人々の気持ちを理解できるか」ということが大事ですね。都市の中身とは何だろうと考えると、やはりそこには人間が中心にいて、様々なことを動かし、多くの人が住んでいるということが特徴だと思うのです。だからこそ人間同士の「対話」や「共感」が重要で、AIには取って代わることのできない側面だと思うのです。
地域課題実習では、学生一人ひとりが人間として様々な他者と話し、共感しながら取り組む。ケアという概念がプロジェクトの中心にあると思います。
志村 ケアと言われれば多少痛々しい感じがするので、フォローというニュアンスに近いのかもしれません。そして、そういった地域のケアやフォローを持続させていくためにも、大変なことであっても「楽しくやっていく」ことが、活動を持続させていくためには必要だと思います。例えば、日本では昔から津々浦々で祭りが催されますが、祭りには定期的に防災点検をする機会としての側面があります。神輿を担いで回る経路は避難経路の確認や避難誘導の共有化を兼ねていたり、井戸水が飲めるか点検したり、炊き出しや夜店を出すことで防災時の炊事環境の確認や練習をするわけですね。そして祭りを介して地域内の住民がコミュニケーションを図ることで、コミュニティの絆も育まれていきます。本来は面倒なことなのかもしれませんが、やらなくてはいけない防災点検や訓練も楽しくやれる方法が祭りには組み込まれています。みんなが楽しく参加すれば、「また来年もやろう」と思いますよね。こうした伝統的なコミュニケーションを続けていくことが、日本ならではのコミュニティの持続性や、文化や技術の継承にも繋がっていると考えられます。
地域の心境に寄り添いつつ、それをいかに楽しみとして転換していくことができるのか。それらをデザインしていくことはとても重要だと思います。
志村 やはり何事でも物事を楽しくできる人や、楽しくプロジェクトをやっている人々のそばに多くの人は集まる傾向があると思います。真摯に向き合いながらも「楽しく行う」というのはひとつのスキルであり、人間としての能力や魅力でもあるわけです。ちなみに、私の地元である静岡県静岡市清水区の有度地区では、3年ほど前から「UDOまちづくりベース」という人材育成講座を行ってきました[図5]。聴講者は80歳くらいの高齢者から地元の議員、高校生、障害者の方々で、まちづくりのビジョンをみんなで考え、ビジョンに向けた活動をプロジェクト化しています。そこでも私は、「楽しくやることは大事」とお伝えしています。各地域の様々な場面で後継者や担い手がいないとのことで悩みも聞いたりもしますが、「大変さ」だけを口にしていても後継者は出てこないので、大変でも「楽しく取り組む自分の姿を見せたり、楽しさを組み込んではどうか」とお伝えしています。地域課題実習にも共通することですが、それが地域の持続性を導くためのひとつの大きな「方法」だと思うのです。
地域・都市デザイン、建築意匠、まちづくり、デザイン学。地域連携推進機構/地域実践教育研究センター准教授。著書に『まち建築』(共著、彰国社、2014年)、主な論文に「廃板ガラスを原料とした低温溶融成形による再生ガラス建材の技術開発に関する基礎的研究」(博士論文、2006年)、「逗子市沿岸部における住宅の特徴」(『日本建築学会大会』学術講演梗概2015〔建築歴史・意匠〕、2015年)などがある。現在、コモンズに関する研究を進行中。