IUIピックアップ VOL.28

都市をつなぐ「橋」から見えてくるもの

インタビュー

勝地 弘[土木工学、構造工学、長大橋の構造/都市イノベーション研究院長・教授]

Interview with

Hiroshi KATSUCHI

勝地弘先生は土木工学分野における構造工学、耐風工学、長大橋の構造などを研究されています。ご自身との関わりの深い明石海峡大橋との出会い、またそこに至るまでの足跡を辿るとともに、力学的な観点から読み解く風と橋との密接な関係、最新のデジタル及び旧来のアナログ技術を駆使したシミュレーションの重要性、さらには社会に生きる人々が移動することの変容を通じて、長大橋と呼ばれる構造物の魅力やその意義についてお話を伺いました。
聞き手|藤原徹平[建築家/Y-GSA准教授]
ポートレート|白浜哲

まずは専門の研究領域について教えていただければと思います。

勝地 分野としては土木工学、構造工学で、主に橋梁とその耐風構造を研究しています。

元々小さい頃から橋などの大きな構造物をつくりたいという興味をお持ちだったのでしょうか。

勝地 小さい頃はどちらかというと電気工学に興味がありました。私の父が若い時に電気屋に勤めていて、近所のテレビの故障を直しているのを見て面白いなと思ったんですね。でもいわゆる土木工学とか社会基盤といった、大きなものがかたちとして残る分野にも多少は興味がありました。どうしようかなとは思ったんですが、大学受験で受かった第1志望が建設系の学科だったので、そちらに進むことになりました。

その中でも橋を専門にされたのはどういったきっかけによるものだったのでしょうか。

勝地 土木で何をやっていくかと考えた時に、最初は国鉄に行こうと思ったんです。でも私が大学を卒業する時には民営化されることが決まっていて、「『鉄道技術研究所』に行きたいと思います」と研究室の先生に話したら、「民営化されたら研究所は真っ先に潰れるぞ」と。研究所は今もありますが、当時はどうしようかと考えていたところ、昔の建設省関係の公団のひとつに「本州四国連絡橋公団」(現・本州四国連絡高速道路株式会社)という部署があったんですね。そこでは橋をつくっていて、ゆくゆくは明石海峡大橋もつくるという計画になっていた。それで先生に「興味があります」と言ったら、「知り合いがいるから連絡しておく」と言ってくれたんです。公務員試験枠からの採用面接を受けて採用されることになりましたが、本州と四国をつなぐわけですから長い吊橋とか斜張橋の風の問題、振動の問題が大きなテーマとしてあって、これは面白いなと思いました。

その後、勝地先生は海外の大学に留学されています。どういう経緯だったのでしょうか。

勝地 旧日本道路公団の関連組織である「公益財団法人高速道路調査会」が留学の支援事業をやっていたんですね。もちろん試験に受からないといけないんですが、4回目に受験して受かりました。留学先はどこへ行っても良いということだったのですが、本州四国連絡橋公団の長大橋の耐風設計の委員会におられた宮田利雄先生や山田均先生(いずれも本学名誉教授)に、「耐風構造について学べる留学先としてどこか良いところはありませんか」と伺ったところ、紹介してくれたのがアメリカのジョンズホプキンズ大学でした。もう亡くなられてしまいましたが、耐風構造に関する世界的な権威であったロバート・スキャンラン先生がその大学にいらっしゃったので、迷うことなくそこに決めアメリカへ1年半ほど行ってきました。

スキャンラン先生が斜張橋や風洞実験の研究をやっていたと。

勝地 風洞実験もやっていましたが、コンピュータを使った解析シミュレーションもやっていました。スキャンラン先生ともう一人、ニコラス・ジョーンズという当時まだ教授になりたての新進気鋭の若手の先生がいらっしゃり、アメリカでは数少ない風の研究を彼らがやっていたんですね。

2018年度のYEARBOOKで行った藤野陽三先生へのインタビューでは、風と橋との振動が同期したために橋が崩れてしまった1940年のタコマ橋での事故について伺ったことがありました。そういった風と橋の研究は、いつ頃から世界的に盛んになったのでしょうか。

勝地 風の影響が認識されたのは1880年頃です。イギリスのテイ橋という鉄道橋の上を列車が走っている最中に、車両と橋桁が風で吹き飛ばされてしまったため、たくさんの人が命を落としたという事故が起こりました。当時のイギリスでは現在考えられる風力の5分の1ぐらいしか考えていなかったことと、使われていた鉄の材質が悪かったことも原因ですが、それが風の力を認識させる事故でもあったんです。その後、アメリカで吊橋がたくさんつくられていき、先ほどのタコマ橋が1940年に風による振動で落ちました。実は飛行機の翼も、1903年のライト兄弟の初飛行以降、飛んでいる最中に風で異常な振動を起こして墜落するという事故が何度も起きていて、それを踏まえながら飛行機が発展していったという背景があります。だけど橋ではそんなことはないだろうという認識でどんどん長い橋がつくられていたんですね。でもそのタコマ橋が落ちた時に色々な原因を究明してみると、橋も長くなれば飛行機の翼と同じような仕組みで、風による振動が起きるということが分かった。そこでタコマ橋の事故以降、長い橋をつくる時には主に風洞実験などをやることで安全性を確かめてつくられるようになりました。日本では、東京大学にいらっしゃった平井敦先生という方が真っ先にその現象に注目されて、長い橋の風が受ける影響の研究に取り組まれたのがはじまりですね。

タコマ橋
タコマ橋

どれくらいの長さから「長大橋」と呼ばれるようになるのでしょうか。

勝地 道路橋の世界では、橋脚の間隔が200メートル以上あるものが長大橋という定義になっています。ただ、200メートルを超えるとすぐに風で揺れるわけでもありません。種類にもよりますが、吊橋だとやっぱり500メートル以上ぐらいにならないとそういう問題はあまり起こらないんです。

風による振動はどういった力学的な要因によって発生するのでしょうか。

勝地 風による振動というものは、大雑把に言うと基本的には風が当たることでできる風の渦と橋の振動が同期することで起こります。その渦ができる速さは、基本的には風の風速に比例しますから、そうすると振動数が低くなる長い橋の場合、低い風速で揺れることになります。短い橋は振動数が高いので、同じように揺れはしますが、例えば毎秒100メートルとか200メートルという現実にはないような風速でしか振動しないんですね。このように短い橋だと現実的には問題はないんですが、橋が長くなってくると、それが毎秒10メートルとか20メートルといった風速になってくるので、現実の世界で起こり得る問題になってきます。

つまり長い橋になると、重さや構造以外にも風が力学的な問題になってくるという。

勝地 そうですね。設計する時に考えるのは、もちろん日本ですから地震が第1のパラメーターにはなります。しかし例えば橋脚と橋脚の距離が1000メートルを超えてくると、地震の影響を受けるのは橋脚や基礎ではあるものの、橋の上の方のいわゆる「上部工」と言われる部分にはそれほど地震の影響は及びません。一方で、風は直接上部工に当たりますから、長い吊橋とか大きな斜張橋になってくると、もちろん耐震設計も重要ですが、風に対応する耐風設計も非常に難しいテーマになってくるので、設計上の課題になってくるわけです。

強風時の橋桁上の流れ場の可視化
強風時の橋桁上の流れ場の可視化(映像からのキャプチャー):勝地先生の研究は強風時の海上長大橋上における車両走行安全性を中心にさまざまに展開されている。その中で、車両の空力安全性に着目し遮風壁が桁上の風環境・流れ場に与える影響、というのもひとつのテーマとなっている。

今のところ世界で一番長い橋はどこにあるのでしょうか。

勝地 2022年の3月までは中央支間長1991メートルの明石海峡大橋が世界で一番長かったんですが、トルコに中央支間長2023メートルのチャナッカレ1915橋ができたことで、わずかですが世界一を奪われてしまいました。

長大橋は今も世界的にニーズはあるのでしょうか。

勝地 あると言えばありますね。今は中国がいっぱいつくっていますし、ちょっと前だとデンマークやスウェーデンでつくられていました。デンマークとドイツを橋で結ぶ構想もありましたし、朝鮮半島と日本をつなぐ構想も昔からありますね。

それを実現させようとした場合、技術的には何が問題となってくるのでしょうか。

勝地 日韓の場合はトンネル案もあるんですけれども、橋梁の場合はやはり風や地震、気象作用が問題になってきます。あと海の中に橋脚を建てる必要が出てきますから、水深が深いとなかなか難しいという問題もありますね。

先ほど拝見した風洞実験の部屋がとても興味深かったのですが、やはりコンピュータ上のシミュレーションだけでは分からないこともあるのでしょうか。

勝地 最近はコンピュータが発達してきているので、流れの方程式を解かせた「数値流体解析」という手法で流れを再現、シミュレーションするという方法の精度がかなり上がってきています。風洞実験と比べてみても、同じような結果を数値解析やデータ解析で得ることができます。ただし今の数値流体解析で得られるのは、橋桁の周りにどういう風の流れや渦ができるかということを断面にした時の解析なんですね。断面であればかなり正確に解析はできますが、実際の橋は長くつながっているわけです。風の力はある位置と他のある位置で違いますし、さらに離れるとまた変わりますから、それを同時にシミュレーションしないと実際の橋の動きというものは再現できません。そういう解析をするためには、今のスーパーコンピュータを以てしても無理なんですね。そうすると模型を使った実験がいまだに使われる必要が出てくるわけです。

勝地弘教授
勝地 弘 研究院長・教授

なるほど。模型を使った実験の歴史はいつ頃からあるのでしょうか。

勝地 先ほどのタコマ橋が落ちた時に、ワシントン大学の先生が同じ橋を再現した模型をつくって風洞実験をやったんですね。タコマ橋は落ちる前に何ヶ月も揺れていたのでたくさんの映像フィルムが残っていたんですが、それと見比べると実験によってかなり正確に再現できていることが分かります。それ以降に新しくつくられる橋は風洞実験、模型を使った実験をやるようになり、色々な技術が発展しながら今に至るということになります。

横浜国立大学にある実験室は、日本の中でもかなり貴重なものになるのでしょうか。

勝地 そうですね。そんなに多くの大学が持っているわけではなく、全国でも本当に数えるほどです。東京大学、京都大学、横浜国立大学。あとは九州工業大学と徳島大学ぐらいでしょうか。

コンピュータの解析を学ぶと同時に、学生は模型による風洞実験も重要であることを理解しなければいけない。そのためにはどのようなかたちで体系的に学んでいくことが望ましいと考えますか。土木の耐風設計や構造工学を知る上で軸になるものや大事にしてほしいものについて教えていただければと思います。

勝地 まずはやはり基礎的な知識、基礎学問ですね。風による振動ということであれば、物理学を押さえておかないと研究を続けていくことが難しくなってしまいます。また、力学や振動工学の基礎的なところを踏まえた上で、現実に起こっている問題をうまく捉えられるかどうか。真理を探求することはもちろん大事ですが、現実社会で起こっている問題を解決すること、あるいは社会への貢献とうまくどうつなげていくことができるのかが重要になってくると思います。

コロナ禍のあとに都市というものの姿が変わるのではないかと、さまざまな研究領域の中で話題に挙がっています。「都市のあとに来るもの」が2022年度のYEARBOOK全体のテーマでもあるのですが、そのことについて何か考えられることがあれば伺いたいです。

勝地 これまでは移動を便利にするために交通の手段をどんどん発展させてきましたが、それがこの先どうなっていくのか。例えばコロナ禍による移動制限によって、一斉にリモートツールを使った打ち合わせや授業が強制的にはじまりました。ただ、それはそれでやってみると結構便利なところがあるとも思ってます。遠方にいても会議には参加できますし、移動時間は節約できるので、それはメリットとしてあるんじゃないかと。でも一方で、人間はやはり対面で話すことが大事だと思うんですね。最近は少しずつ緩やかになったことで相手との対面も増えていますが、出張や会議ではリモートツールも使いつつ、そこはうまく使い分けていけば良いのかなと思います。橋の働きにおいても、移動を便利にするために物流や人の流れを促進してきたわけなので、今後そういう全体の進むべき方向、考え方も変わり得る可能性があるのかもしれません。

移動しない社会になっていくのではないかと。

勝地 もちろん移動の需要はあり続けると思いますが、絶対量としてそれがどうなっていくのかということです。昔ならただでさえ夢のようだったテレビ電話も、すでに20年ほど前から現場の状況をリアルタイムに把握できる技術として生まれていました。そして、ここ5年くらいのあいだにそういった技術も急激に発達して容易になっています。さらに言えば、A.I.やロボットも発達してきていますよね。だから昔よりもどんどん便利になってきてはいるんです。ただ、人間本来の処理能力は上がっているものの、思考能力自体は昔とそう変わらないのではないかと思います。だからその状況をどう変えていくのか。その先に社会がどうなっていくのかということに興味があります。いくら便利になったとしても、海外に行って知らないところを自分の目で見てみたいという欲求そのものは、人間にとって今後も変わらないと思うんですね。

見たいものの種類が少し変わることによって、自分で行って見たいものと、遠隔で見られればそれで良いものの差がもっと生じてくるのかもしれませんね。勝地先生はどういったものであれば現地まで行って見に行きたいと思いますか。

勝地 もちろん自分の研究領域である世界の色々な橋は、自分の目で確かめたいです。加えて名所旧跡ではないですが、ヨーロッパの古い町並みだとか、アメリカで急激に発達した都市のありようなど、いわゆる都市の歴史を知ることのできる場所は見に行きたいですね。

橋を一望することのできるお薦めの都市や風景はありますか。土木工学分野以外の学生にもぜひ見てほしいものがあれば教えてください。

勝地 マンハッタンを囲むようにハドソンリバーとイーストリバーが流れていますが、その周囲に立派な複数の橋が架かっています。つまり橋がアメリカの発達の歴史を物語っているんですね。マンハッタンを3時間くらいで1周できる遊覧船があり、それに乗ると10、20ほどの橋を見ることができます。あとはヨーロッパだとパリのセーヌ川やロンドンのテムズ川にもボートクルーズがあるので、そちらも楽しいと思います。

最後に学生へ伝えたいことがあればお願いします。

勝地 歳を取ってからも考える時間はあるとして、やはり若いうちに考えたり勉強したりしたことは、歳を取ってから考えること以上の価値があると思います。私は30歳を過ぎてからチャンスがあったので留学をしましたが、これが20代の頃であればもっと違った成長があったのかなとも思います。ですから、自分の分野だけが勉強だと考えるのではなく、学生のみなさんには若い頃から幅広くさまざまなことに取り組んでいただきたいです。

Hiroshi KATSUCHI
Hiroshi KATSUCHI
1962年生まれ。横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院長/都市地域社会専攻教授。土木工学分野において構造工学、耐風工学、長大橋の構造などを研究。主な著書に「タコマ橋の航跡」(共著、三恵社、2005年)、「風工学ハンドブック」(共著、朝倉書店、2007年)、「風の事典」(共著、丸善出版、2011年)、「Wind Engineering for Natural Hazards」(共著、アメリカ土木学会、2018年)など。