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IUIピックアップ Vol.1

世界とつながる、実践的教育の試み 【 日本建築学会教育賞 】受賞
田才 晃[構造工学/都市イノベーション研究院 教授]インタビュー

Interview with Akira TASAI

聞き手=藤原徹平/写真=白浜哲

本学の田才晃教授が他大学とともに共同で開催している「国際トラスコンテスト」が《日本建築学会教育賞》を受賞した。国内・海外の大学と合同で行われるこのコンテストは、インターネット中継を利用しながら、それぞれの大学が作成した「トラス」の耐久性能を競うというもの。実践的な知識と技術が求められるこのコンテストの概要と教育的な意義について、田才晃教授にお話を伺った。

今回受賞された「国際トラスコンテスト」の活動は、どういった経緯ではじまったものなんでしょうか。

田才 もともとは名古屋工業大学で大学院の授業の一環として2001年からはじめられたもので、その翌年から名古屋大学とこの横浜国立大学も参加することになりました。当時はコンピュータの通信ができなかったので、この大学にあったサテライト教室で衛生回線を使って参加していたんです。その後、2007年からアメリカのパーデュー大学、ミネソタ大学、コロラド州立大学が参加することになり、現在は九州産業大学やトルコのイズミール大学、アメリカのイリノイ大学など、全部で14大学が参加するコンテストになりました。

このコンテストは毎年提示されるルールに則って各大学がトラスを制作し、その耐荷重を競うというものです。ルールではトラスの模型の素材やスケールも制限されていますね。

田才 制限を設けないといくらでも強いものをつくることができるので、このコンテストは限られた条件のなかでどこが一番強いものをつくれるのかというゲーム的な競争ですね。細い木の材料を使う年もありましたし、年によって少しずつルールの内容を変えています。ゲーム的な競争とはいえ、力学的な丈夫さという点では模型も実物も同じ問題を扱うことになります。どうやったら強いものができるのか、原理的なところは同じなんです。また、日本だと橋は土木の分野で、建物は建築の分野ということになりますが、海外ではそういった区分けはなく、構造エンジニアは建築も橋も設計しています。原理的には建物も橋も構造工学の知識体系というものはさほど変わらないんです。

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2015年度 国際トラスコンテストルール

1. トラス橋は、互いに1m離れ同じ高さを持つふたつのテーブル間にまたがるものとする。また、テーブル上面のみに接触し、高さは荷重をかける以前の時点で10㎝以下とする。
2. 荷重はスパンの中間地点でかける。荷重をかける点は荷重をかけているあいだテーブルよりも高いこと。
3. 材料は紙と糊とする。紙と糊はどのような種類を使用してもよいが、紙は木材由来のパルプ製とのものとする。
4. トラス橋の総重量は100g以上にならないようにすること。
5. 荷重は10秒間つるさなければならない。
6. プラスチック紐またはフックを、荷重をかけるために使うことができる。フックの重さは荷重の一部として考慮する。
7. 1周目の荷重はおよそ3kgfとする(3kgfより小さくすることはできない)。載荷は1分以内の行われなければならない。
8. 2周目の荷重は任意の荷重増分が許可されている。しかし、スコアはkgf単位1桁までは切り捨てられる。載荷は3分以内に行われなければならない。
9. 各大学とも参加できるトラス橋はひとつとする。

国内外の大学がネット中継をしながら同時に競うというところがとても面白いですね。

田才 もう15年間続けているコンテストになりますが、海外の大学は日本と開講時期が異なるので開催時期を決めるのが大変です。海外の大学の夏休みなどに重なってしまうと開催できないといったことがありますので、最初は春先にやっていたこともありました。ここ数年間は安定してこの時期にやっています。あとは時差があるので、こちらが昼でも海外は夜といったことで不公平にならないよう、毎年時間を変えながらローテーションをしています。

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国際トラスコンテストの様子:画像提供 田才晃

田才先生のご専門は構造工学です。このコンテストではトラスの構造物に限定されていますが、主な研究テーマとして取り組んでいるものはどういうものなんでしょうか。

田才 おおまかに言えば、鉄筋コンクリート構造の耐震性能に関する研究をしています。建物のシステム全体を見ることもありますし、部材のひとつひとつの強度を見ることもあります。あとは既存の建物をどのように補強していくかという研究もしています。やはり学生の数だけ取り組んでいる研究があるので、どれが主か一概には言えないのですが、みんな重要なテーマに取り組んでいます。たとえば私の研究室のある学生のテーマは、ALCという、コンクリートの構造材料としては使わない質感の素材を用いて住宅をつくった場合に、十分な耐震性能を確保できるかどうか研究をしています。その研究は実際に実用化できるもうすぐのところまできています。ほかには耐震性のない建物を補強するときに、既存の建物と補強材をアンカーという金属でつなぐ接合部がどのくらい強いか、アンカーが壊れないかどうか、そうした建物補強のための基準をつくっていくための研究をしています。何も基準がないと、危険な状態のまま接合されていったりしまうからです。また、最近問題になっている建物の基盤を支える杭の研究もあります。地盤のなかに杭を打ち込んで、その上に建物を建てるわけですが、地震のときにどれくらいの強さでその杭が壊れるのかを実験しています。杭にもさまざまな種類があり、コンクリート系のものは鉄筋で補強されているのですが、鉄筋もコンクリートも、材料として限界の強度というものがあります。しかし鋼材を使った場合、強さの限界がきても飴のようにぐーっと伸びてくれる性質があり、それをコンクリートに入れることで、コンクリートにひび割れが入ったとしても部材としての抵抗力が落ちない。部材は曲がっていくとどんどん抵抗力が高くなっていきますが、ある抵抗力を超えたときに、その抵抗力を維持したままずっと変形をしていくという状態になるんです。これは一種の破壊に進んでいる状態ですが、強度が落ちずに変形していくということは構造物としてすごく安全なんです。地震は数十秒間なので、急激な変形が進むことなく抵抗しているうちに、構造物は壊れずに済む、という状態になるということです。

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そうした構造工学の分野というものは、同じ建物を対象としていてもたとえば設計のデザインとはまた異なる領域ということになるのでしょうか。

田才 非常に基本的なことですが、建物には柱があります。建物の規模が大きくなってくると、一本の柱で何百トンという重さを支えなければなりません。ただ、デザインの要求から柱を細くしたいということもありますので、そういうときに本来構造物として持っていなければならない性能のために、実験や検証を重ねたりもします。それはデザインとは無縁な話ではないところですね。どんなデザインでも建物自体は建てることはできますが、そのなかに必要な柱や壁にどれくらいの強度の材料を用いながら組み合わせていき、地震に対する抵抗力をどれくらい発揮できるのか、そこを見極めなければいけません。柱を細くしていくことで宙に浮いているような構造物をつくることも可能ですが、地球上の重力のなかで、また日本のように地震が多く起こる国でそうした建物をつくる場合、安全な構造物というものを実現できないということがあります。我々がやっている研究は、主に地震に対する建物の抵抗性に焦点を当ててやっていますが、さまざまな条件のなかで最終的にできあがってくる建物の形状を規定することにつながっていきます。建物そのものを規定しますので、そういう意味ではデザインとも深く関わるということになると思います。

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やはりデザインが凝ってくると、それだけ構造設計も難しくなってきたりするものなんでしょうか。

田才 たとえば、丹下健三さんが設計した東京都庁舎がありますが、あれは第1本庁舎と第2本庁舎があり、上のほうが長方形の箱がねじれたようなかたちになっています。でも、ふたつとも構造的にはなかに通っている柱や梁にさほど違いはありません。見た目のかたちは変わっていますが、構造システムとしては非常に安定したものが一貫して使われているような構造になっています。ただの長方形の建物では面白くない、というときにデザインを少し変えているということですね。都庁舎を構造設計を担当したのは、この大学で私の前に教えていた長田正至先生という方で、ある大手建設会社の構造設計をずっとやられていた方です。都庁舎の設計は、デザイン設計が丹下健三さんで、メインの構造設計者がふたりいて、もうひとりの方と組んでやったそうです。都庁舎の計画が持ち上がったときに、打ち合わせで丹下先生が建築の機能としてこういうものが必要で、デザイン的には上のほうにこうした変化がほしいとラフなスケッチを書いたそうです。そうした建築家側からの希望を受けて、構造設計者はそれが実現できるようにする。構造システムとして、非常に頑丈で堅固なもの実現することがこの分野の仕事なんです。面白い話があって、まだかたちも決まっていない段階で、丹下先生からだいたいの建物の規模を聞いた構造設計者側が、手計算で柱の太さや厚さなどをその場でざっと計算してあたりをつけたそうなんですが、それがコンピュータの解析などを経て1年くらいかけて計算して最終的に決まった鉄の大きさや厚さとほとんど一緒だったそうです。ここまでくると、構造設計者として名人の域です。構造の体系を学び、それを使っていろんな仕事をし訓練していくと、自分自身に身に付いたものとしてわかるようになると思うのです。

この「国際トラスコンテスト」も、そうした訓練のひとつとしてとても重要なものだと思います。田才先生としてはこのコンテストをやることによって、どういった教育効果があるとお考えでしょうか。

田才 まず、同じ研究分野の海外の大学との交流が生まれるという利点がひとつあります。それと同時に、国内・海外の他大学と一緒にこうした競技をやるということ自体が学生たちにとってとても刺激になります。やるからには勝ちたい、ではそのために強い橋をどのようにつくるかと、まさに構造エンジニアリングの基本を思考しなければなりません。これは実際の仕事とまったく同じなんです。学生たちにとっては、そうしたトレーニングになるということが一番大きいと思います。また、各校でエントリーできる模型はひとつだけなのですが、そのひとつのアイデアにたどり着くまでに、内部で複数のチームがそれぞれの案をつくり、そのなかで一番強いものを提出する、そのプロセスが大事なんです。組織を改善していくためのPDCAサイクル(PLAN、DO、CHECK、ACTION)という指標がありますが、それとまったく同じなんですね。目標の強度が達成できなかったら、ではどこが悪いのかと考える。計画を練り、トラスを実際につくって、壊れてしまう箇所をチェックしてまた検討する、というようなサイクルが生まれることが非常に重要です。構造工学の思考と知識を総動員してやらなければならないため、この教育効果というものは、単に授業で先生の話を聞いて試験を受けるといったものからは得られないものだと思います。構造物というものは、建設するだけでも工程は複雑ですし、設計していく過程も複雑です。構造的な検討、デザイン的な検討、設備的な検討などを加えて、それぞれの専門領域の人たちが結集してひとつの建物はできあがっていきます。そういう意味では、巨大技術と呼べるようなものです。このコンテストはチームで意見を出し合い、最終的にひとつの案にまとめていくという実践に則したトレーニングですので、それ自体が教育的に有効だと考えています。

Tasai Akira

Akira TASAI
横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授。専門分野は、建築構造、耐震構造研究。主な著書に『鉄筋コンクリート構造を学ぶ』(共著、理工図書、2009)、『耐震構造の設計 学びやすい構造設計』(共著、日本建築学会関東支部、2012)など。鉄筋コンクリート構造の耐震性に関する研究に取り組みながら、毎年開催される「国際トラスコンテスト」を通じて構造設計の実践的・能動的な教育を行っている。